「この時期になると、そろそろサバが脂を乗せてくる頃だ」
「そろそろ山菜が出回ってくるな」
「夏野菜を使った冷製メニューを出そうか」
そんなふうに、季節の移ろいと共に料理を考えるのは、料理人・飲食店経営者にとって当然の感覚だったと思います。旬を取り入れたメニューはお客様に季節感を届け、自然のリズムに沿った営みは、仕入れ価格を抑えながらも最も美味しい食材を活かす、いわば理にかなったやり方でした。
しかし今、私たちはその“当たり前”が通用しない時代にいます。
「旬」が読めなくなった現実
2024年、記録的な猛暑は日本列島を覆い、漁業や農業に甚大な影響を及ぼしました。
サバや鮭など、例年なら漁獲が安定していた魚種が不漁となり、果物や米、葉物野菜も深刻な不作に。夏の高温や異常気象は、植物の成長を妨げ、収穫量の減少を招きました。
「例年どおり」が通じなくなって久しいですが、今年は特に「もう元には戻らないのではないか」と、多くの方が感じたのではないでしょうか。気候変動の影響は年々激しさを増し、“異常”が“通常”になりつつあります。
この変化の中で、「来年こそは安定するだろう」「今年だけだろう」と楽観視する飲食店経営者は、正直少数派になってきています。むしろ、多くの経営者が「どうやってこの混乱の中で店を回していくか」を真剣に考えはじめています。
不安定な仕入れにどう対応するか
では、私たちは何をすべきか。どうすれば変化の激しい時代を乗り越えられるか。
まず重要なのは、「食材の不安定さを前提にした仕入れ体制・メニュー設計」にシフトすることです。
これまでは「この食材がこの時期に手に入る」という見込みで仕入れやメニューを組んでいたと思います。しかしこれからは、「仕入れられるかどうか不透明」であることを前提にしなければなりません。
✅ 現実的な対策案一覧
①【選択仕入れ+メニュー変動制】
内容: 食材は「メイン」「サブ」「オプション」に分け、複数候補から仕入れを柔軟に選べるような仕入れ体制を構築。入荷状況に応じてメニュー構成を日単位・週単位で変更。これは多くの飲食店にとって実行しやすいアイデアのひとつです。
具体例:
• 「本日の魚定食」は仕入れ状況に応じてサバ、ホッケ、アジなどから切替。
• 週替わりメニュー用のボードを常備し、変動に対応。

②【地元生産者との直接連携・仕入れ】
内容: 安定供給を目指すより、“今あるものを最大限活かす”という考えで、近隣の農家や漁師と直接取引。旬の“リアルな現状”を知ったうえで柔軟に対応。この方法は、地元に根差した飲食店ならではの強みを活かす仕入れアイデアです。
具体例:
• 「農家さんから届いた○○で一品」コーナーを設置。
• 毎週、生産者に「今週出せそうなもの」をヒアリングし、献立を逆算。
③【加工・保存食材の活用】
内容: 新鮮な生食材に頼りすぎず、冷凍・乾物・レトルト・瓶詰などの“保存性の高い食材”をベースに一部メニューを構成。生鮮食材が不安定でも安定営業が可能になる、現実的な飲食店の運営アイデアです。
具体例:
• 味付け冷凍魚・冷凍グリル野菜などのストック運用。
• 「自家製なめたけ」「ピクルス」「肉味噌」など瓶詰系を常備。
④【メニューに“代替可能”の文言を入れる】
内容: メニューにあらかじめ「食材の入荷状況により一部内容が変更になる場合があります」と記載しておき、お客様に変動を理解・許容してもらう工夫。これは、あらゆる飲食店で応用可能な小さなアイデアです。
具体例:
• 「※仕入れにより、野菜の内容が変更になることがあります」
• 「季節の魚のカルパッチョ(本日は●●を使用)」
⑤【“決まったものを出す”発想をやめる】
内容: 定番よりも“おまかせ”や“本日の●●”など、決め打ちしないスタイルに変えることで、仕入れの自由度を最大化。この柔軟性が、変化の激しい時代を生き抜く飲食店の武器となります。
具体例:
• コース料理を「店主おまかせコース」のみにする。
• 定食を「本日の肉料理/魚料理」で統一し、中身を柔軟に変更。
⑥【在庫を抱えない・ストックしすぎない】
内容: 無理な先買い・大量仕入れは逆にリスク。価格変動・不良・廃棄のリスクを抑えるためにも「こまめな発注・少量仕入れ」を徹底するのも、堅実な飲食店経営のアイデアのひとつです。
具体例:
• 毎日 or 隔日のルーティンで少量仕入れ。
• ストック用冷凍庫を持ちすぎない。

⑦【天候の“ズレ”を逆手に取ったメニュー演出】
内容: 「本来この季節には見られないはずの食材」を、むしろ話題性・特別感として活かす。異常気象や収穫時期のズレを“ストーリー”にして提供することで、お客様に驚きと納得を与えるメニューアイデア。
具体例:
• 「真冬にやってきた秋の味覚・さんまの塩焼き」
• 「ようやく届いた!遅れてきた“松茸”土瓶蒸し」
• 「初夏のトマトが春に登場!? 地元農家さんの奇跡の収穫」
ポイント:
• メニュー名やPOP、SNSなどで“本来ならありえないタイミング”を明確に伝えることで話題性UP。
• 天候不順の背景や生産者の苦労も織り交ぜると、共感や応援消費にもつながる。
季節感の伝え方を見直す
旬の食材が手に入りにくくなっても、季節感を提供することは可能です。
たとえば──
• 漆器やガラス皿など器の使い分けでメニューを演出するアイデア
• 盛り付けや彩り、香りで季節を感じさせる飲食店ならではの工夫
• 店内装飾やBGMで五感から季節感を提供する演出アイデア
こうした演出は、仕入れの不安定さをカバーしながら「季節の魅力」を伝える有効な手段となります。特に観光地や都市部の飲食店では、非日常を感じに来るお客様も多く、五感すべてを活かした演出は満足度向上にもつながります。
サステナブルな取り組みと経営意識
このような時代だからこそ、飲食店の“在り方”も問われています。
• 食材ロスを出さない工夫(端材の活用、ロス前提のメニュー構成)
• フードマイレージを意識した地産地消
• 廃棄物の再利用やコンポスト活用
• CO2排出量を減らす店舗オペレーションの見直し
これらは「環境に優しいお店」としてのブランディングにもつながります。特にZ世代や意識の高い層にとって、サステナブルな視点は飲食店選びの大きな判断基準となっています。
混沌とした時代を“楽しめる”店づくりを
気候の混乱は、もはや一過性のトラブルではありません。むしろ“これからの前提”として受け入れ、柔軟に対応していく姿勢こそが、飲食店の生き残る鍵です。
「今日はこんな魚が入ったから、こんな料理にしてみた」
「農家さんから面白い野菜が届いたので、即席でこんなメニューを作ってみた」
そんなふうに、変化に対応する“ライブ感”や“ワクワク感”をお客様と共有できる飲食店は、むしろ今の時代に強いです。
安定しない時代だからこそ、変化を楽しむ店は選ばれます。
変化に翻弄されるのではなく、変化を活かして前に進む。
私たち飲食店ができることは、まだまだたくさんあります。
新しいメニュー、新しい仕入れのアイデアが未来をつくります。