家飲みと食事をちょっと贅沢に③ 常温のおいしさを知る

世界的に見るとビールをキンキンに冷やして飲むのは、アジアに多く見受けられることがわかる。
特に日本は、お酒全般をしっかり氷などで冷やして飲むことが多い。
やはり日本の気候によるところが多いのだ。

最近では、だいぶ飲まれるようになってきたが日本は湿度の高い地域が多いことからエールタイプのつまり、ちゃんとした濃厚なビールは好まれることは少なかった。 
それが、料理ジャンルの多様化とエアコンの普及でどんどんと消費されるようになってきた。

キンキンに冷えたビールは、ビール自体を味わっているというより、喉越しを楽しんでいることの方が優先されている。
アサヒスーパードライが入荷待ちの時代があったことからもわかるように、元来のビールではなく、清涼飲料水のようにスキッとしたものを飲みたいという欲求から、あっさりとしたビールが幅を利かしたのだ。 

食べ物においても、この気候との関係は深いものある。 

その辺りを深く理解して、「温度」というものを気にして料理を楽しんでみてほしいなと思う。

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温度と味覚の関係

一番わかりやすい例として、旨味の感じやすい温度に着目するのがいい。

朝の食卓にお味噌汁が出てきて、最初に温度の高い状態で飲んだ時はそんなに旨味を感じないはずだ。 

フーフーしながら熱い状態ですすり、それで少し目が覚める。
そのまま、ご飯とおかずを食べ進めて行くうちに味噌汁の温度が下がり、すごく美味しく感じるゾーン入るのを感じたことのある人は多いと思う。 

蕎麦やうどんのつゆも同じことが言える。

味噌汁、スープなどは、温度の変化で味が変わっていくのを無意識に楽しんでいるはずだ。
 
しかし、他の料理はどうなのであろうか?

お刺身の美味しい温度

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一番、もったいない食べ方をしているなと思うのは、生魚である。
やはり新鮮であることが求められることから、食べる直前まで冷蔵庫に入れておき、出してからすぐ食べ切ってしまうことが多い。

しかし、先ほどもふれたようにキンキンに冷えた刺身は、旨味を感じない状態で、舌を喉を通過してしまう。 

ざるそば、そうめんも同じことが言える。 

その時の気温にももちろん左右されるが、茹でた後、氷でしっかりしめることで麺はシャキッと仕上がり、その喉越しはよく満足できるかもしれない。

でも、ここで少し時間をおいて常温に戻ってから食べてみてほしい。 

そばも、そうめんもキンキンに冷やしたものより圧倒的に美味しく感じるはずだ。
めんつゆも同様、氷を入れたり、冷蔵庫から出したてのものとは旨味が全く違う。 

生活環境に合わない食べ方

そうめんを茹でて氷でしめて、更に氷の入ったお皿に泳がしておき、それを食べる家庭はまだとても多い。 

これも改めてみてほしい。

これはエアコンのなかった時代に定番となったやり方だ。
年配の人なら想像つくかもしれないが、氷の入ったお皿に盛られる素麺は、扇風機とうちわと風鈴がセットなはずだ。 

とにかくオーバーヒートした体を冷やすことが目的だったりもする。

エアコンの効いていない家でそうめんを食べようとすれば、あっという間に緩くなってしまう。
そんな環境下で氷と一緒に盛ることは、その時代の一つのアイデアであるが、こと令和の時代では必要のないことだ。

冷奴もそうだ。
これは江戸時代に流行ったもので、夏の定番の一品だ。 

冷蔵庫もエアコンもなかった江戸時代と同じ生活環境の人が今いるであろうか? 
エアコンをガンガン効かせ、キンキンに冷やした冷奴は、旨味が感じられる温度になる前に食べ終わってしまう。

これも常温に近くていいはずなのだ。

出来立てを食べるべきもの

反対に、常温になっては不味くなってしまうものもある。

特に顕著なのは揚げ物だ。 
揚げるという調理方法は、そもそもが食材の水分を抜き、味を凝縮させることが目的だ。

例えばコロッケだが、混ぜ合わせて具材に衣をつけて揚げる。
そうするとジャガイモなどの水分が抜けていき凝縮された旨味だけが残る。 
これをある程度、高い温度のまま食べれば美味しいが、常温まで戻っってしまうと水分を抜いて、冷やし固めたものになってしまう。 

これは、パサパサな食感となって美味しいとは感じない。 
揚げた時についた完全に切りきれてない油と衣が固まらないうちに食べることで、具材もまだ柔らかく美味しくいただけるのだ。

肉の調理法と温度の複雑な関係

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日本では、肉は焼き立てでアツアツがいいとされることが多い。
冷めれば硬くなってしまうという思いからくるものだ。

しかし、これもヨーロッパの食し方を見るとそんなこともない。
ローストビーフやタリアータ、コンフィなんかはどうであろうか?
そもそも常温で食べることを念頭においたものも多い。

これらは、調理方法、肉の切り方で大きな違いを生んでいる。

イギリス発祥のローストビーフは表面だけしっかり焼き、蒸し焼きか低温でゆっくり火を入れたもので、焼き上がった後も、十分に休ませてから食べるものだ。 

イタリアのタリアータもそうだ。 
ゆっくりと低温で火をいれるか、ある程度の温度で焼き、焼いた時間と同じぐらい休ませる、これを何度か繰り返して作られるものだ。
 
そして、双方とも冷えた時に硬くならないように薄くスライスして食べるものである。
これは口に入れた時に、肉の旨味と脂が体温で溶け出して美味しく感じられるようになっている。 

フランス料理の定番、コンフィ。
これは、オーダーが入ったときはオーブンでさっと焼いて提供されるが、事前に70度程度の油で3時間をかけて水分を抜き、旨味を閉じ込めコラーゲンを分解して保存している。
肉全体の食感が食べる場所によってマチマチなことはなく、どこも均一で
しっとりとしていて、ある程度冷めても美味しい料理の一つだ。  

これは、日本のように小皿で色々な料理をちょこちょこ食べるのとは違い、大勢でゆっくりと量の多い料理を一皿で平らげる文化によるところが大きい。

日本で勘違いされて、もったいないなと思うのは、レシピなどを調べてヨーロッパの肉料理を作ったとしても、美味しく食べられる温度を理解せずに何でも熱々に温めてしまうことだ。

帰りの遅くなったお父さんに冷めてしまったローストビーフを電子レンジでガンガン温めてしまう前に、ちょっとだけ考えてもらいたいのだ。

冷蔵庫で数ヶ月もコンフィは最高の保存食

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