今年もあっという間に1ヶ月が経とうとしています。
今年もまた多くの方々とふれあい、様々なお店のサポートをできたら幸せです。
また、今年は自分自身が実店舗経営をする事業も始めたいなと思っています。
新年早々ですが、今年2023年の飲食業界はどんなふうになっていくのかを書いてみようと思います。
どんなお店にもあてはまるような抽象的な書き方が多いですが、参考にしていただきたいです。
昨年は、過去最高とか初めて直面するような情勢が多く、とにかく変化に次ぐ変化で1年中対応に追われるような年でした。今年からはその世の中の変化からくる影響が隅々まで行き渡り、ビジネスにも明暗がしっかり分かれてくると思います。
対応が遅かったから損をした。
分かっていたが思い切れなかった。
現状維持していたら潰れてしまった。
なんてことにならないように、ほぼ確信できている飲食業界の近未来について予測し、どう対処していくかをまとめてみました。昔から言われている定番の予測も含まれますが、何度話しても危機感を持ってもらえないことを改めて、また、ここでも取り上げていきます。
目次
1 味も値段もそれなりの飲食店が迫られる変革
2 値上げするか閉店するかの判断が必要になる
3 デジタルツールが常態化する
4 AIアートにみる、元も子もない技術
5 キュレーション業態の台頭
6 『飲食店』というカタチがなくなる
7 全時間帯・全方位営業
8 海外の顧客をつくる
9 脱・満席回転主義のススメ
10 最後に
1 味も値段もそれなりの飲食店が迫られる変革
この20年来、飲食業は価格帯の2極化が進んでいくと言われ続けていました。実際のところ圧倒的に安い店か、ちゃんと高級な店、このどちらかに入る業態の飲食店はポジションをしっかりキープしているように思います。
『圧倒的に安い店』は、大手の飲食チェーン店がスケールメリットを活かした仕入れや流通網の整備、店舗業務の自動化によって実現をしてきました。
その一方で、『ちゃんと高級なお店』は、その事業規模に関わらず、熟練した技術を持つ料理人と接客スタッフによって顧客の満足感と付加価値を生み出しその地位を確立しています。
しかし、このどちらにも入らないお店、つまり『味も値段も中間のお店』が飲食店の全体のほとんどを占めているのは周知の事実です。そして、この『味も値段も中間のお店』やそこで働いているスタッフがこれまでの飲食業界を盛り上げて来たといってもいいと思います。
ではこの『味も値段も中間のお店』は、どんなお店か?
こんなお店になります。
コロナショック前はこういったお店もとてもニーズがあり、そのポジションがありましたが、コロナ禍の3年間でこういったお店のニーズはかなり減ってきました。
こんな理由からです。
『味も値段も中間のお店』で中途半端な体験するならテイクアウトやスーパーの惣菜で済ますか、外食する回数を減らして、その数少ない一回を『ちゃんと高級なお店』で過ごそうと考える人が増えています。
『圧倒的に安い店』に価格では勝負にならず、『ちゃんと高級なお店』には技術で勝ち目がないとなると、『味も値段も中間のお店』は今まで、どう立ち向かって来たのでしょう?
これまでは、圧倒的にコストパフォーマンスをよくする、お客様の満足度を上げるといった努力でなんとかやってこれました。
しかし、ここ最近の原材料や人件費、光熱費の高騰でコスパを上げるのは難しく、メニューの価格を上げ過ぎては、お客さんが離れてしまうリスクがあるのが現状です。つまり利幅を削って持ち堪えているのです。
それならば、どう変革して現状を打破するのか?
ちなみに私、太田も一流の調理技術を持っているわけでもなく、大金を投じてスケールメリットを出せるような大きい飲食ビジネスができる資本力があるわけではありませんでした。
なので、これまで『味も値段も中間のお店』を経営し、コスパを上げる努力をし続けてなんとか実績を作ってきました。
同じようなお店を経営している人の今おかれている状況をリアルに想像して2023年の飲食業界を取り巻く環境と予想されるトレンドを共に掘り下げてみようと思います。
2 値上げするか閉店するかの判断が必要になる
皆さんもご存知だと思いますが、飲食店の経営指数としてFL比率というものがあります。Fは食材費、Lは人件費でその合計金額が売上の何%を占めているかというものです。
もうかれこれ30年ぐらいになるでしょうか?
このFL比率は60%を目指すべきだというのが定説になっています。
F 食材費30% + L 人件費30% =60% ← FL比率
この60%を守れるような飲食ビジネスを考えることが圧倒的に経営を有利にすることは間違ありません。
しかし現実的にこの目標数値が達成可能なお店はどのくらいあるのでしょうか?
食材費は、昨年までの1年間でも平均で10%近く上昇し、今年の春までにさらに相当数の品目が値上げとなります。そして、人件費も最低時給がこの数年で何度も上がり、さらに労働人口の減少と若年層の飲食業界離れは進んでいます。都内では時給1500円という求人募集も珍しくなくなって来ました。
この状況を考え正当にその分、商品の値上げをすればいいことですが、それでも客離れが起きる心配がないほど、消費者の給与は上がっていません。消費者の収入が上がってくるまでもう少し時間がかかると考えておくべきです。
経費は膨らんで経営が厳しいが、値上げするとお客さんが来なくなるだろう。
耐えるしかない。
もうこの流れはとっくに限界にきており今年はさらに深刻化します。
この数年間、FL比率60%を守るということは諦めて、利幅を削って70%以上になっている店舗が数多くあり経営を困難なものにしています。
ラーメンは700円台で食べれないとダメだとか、ランチは1000円以内じゃないとなどという決まり文句がまだまだ言われる中、実際には全く不可能な数字だという
ことは、実はみんなわかっているはずです。
この常識みたいなものを打ち破るような、かなり思い切った値上げが必要なはずです。しかし、ほんの少ししか値上げできずに、他のお店が値上げするのをできる限り待っている状態というのが昨年まででした。
でもそんなことは言ってられません。ここまで全ての経費が値上がりしてくると、必要なだけの値上げをすぐにしなければない状況です。
それができなければ閉店するしかないというところまで行っているお店はすでにたくさんあるはずです。
ここでポイントとになってくるのは、『値上げしてもお客さんが離れないお店』であることで、その価値があるお店かどうかということになります。
値上げを実施しても客離れを起こさずに耐え切るお店に成長するか、それが難しければ廃業するかというぐらいの選択が迫られるようになります。
飲食業界で今年達成するべきは、この値上げできないという我慢くらべをやめて、現在のダンピングをしあっている状況を抜けだすことです。
そして近い将来に、ラーメンは1000円が当たり前で、ランチは席に座って食べるのなら2000円近くの出費を覚悟するのが普通の世の中になります。
それまでの過渡期と言えるここから数年をどう乗り切って行くか?
食材費と人件費が高騰する中、どのようにしてこの経費を低減して行くかを常識を疑って考えていくべきです。
次の章からその具体策を話していこうと思います。
3 デジタルツールが常態化する
この数年間で飲食店のキャッシュレス決済や予約システム、POSレジの導入は飛躍的に増えて来ました。
iPadをレジがわりにしてお会計をする光景はもう全く珍しくありません。
このような飲食店でのデジタルツールの導入はさらに進めていき、これをあたりまえにしないとこれからは経営できないと考えるべきです。
『機械にやらせるなんて、味気ない』といった人の温もりが大切論ももっともですが、そのアナログとデジタルの融合点みたいなものは、思った以上にデジタルよりになってきており、それを受け入れられないのでは飲食店は経営できません。
LINEで『風邪ひいたのでバイト休みます。』と連絡するなんて無礼だと言っている店長は多勢いましたが、今はもうそれが当たり前になっていると思います。
その変わり様と同じレベルでデジタルツールの導入を進めないと人口が減少する日本では商売は不可能になってきます。
飲食店を開業するなら可能な限りデジタルツールを利用するのが最低条件となります。つまり、人じゃなくてもいいことは、できるだけ機械にやってもらうということです。
これをできる限り実行に移すことが人件費の高騰に対する策となります。
大手の飲食チェーン店では配膳ロボが使うのが当たり前になり、お客さんが自分のスマホで注文をするセルフオーダーシステムは、小規模の店舗でも当たり前になります。
また、昨年から現金お断りの飲食店も急速に増えて来ています。
高齢の利用者がいることからキャッシュレス決済だけにすることは思い切れなかった店舗も思い切って現金でのやり取りは無しにするぐらいの合理化は推し進めるべきです。
現金での決済がなくなれば、レジ締め時間の短縮、両替の手間や違算がなくなるなどメリットは大きいこととはいうまでもありません。
3000円、5000円などのプリペードカードを発行する、もしくは、お店側がサポートしてでも交通系ICカードなどを高齢に利用してもらうなどの策を飲食業界全体で進めていってもいいと思います。
その他にも、タイムカードシステムや会計ソフトの利用で、アナログでの事務処理を簡易化することは個人事業でも手軽にできる時代です。
これらのことを色々と実行できない理由を並べて、後回しにすることは非常に危険なことです。
『人の代わりに機械にやらせる』という捉え方ではなく、『デジタルツールのサポートを全面的に受けて人が働く』と考えてデジタル化の推進をするのが得策です。
得策というか最低条件になります。
4 AIアートにみる、元も子もない技術
ここからは飲食店のもうひとつの大きな経費である食材費のことを含めた話をしたいと思います。
昨年は、いくつかのキーワードを入力するだけで数十秒のうちにデジタルアートを描いてくれる『Midjourny』 が話題となって、AIアートに注目が集まりました。これは画期的なことでしたが、一部のアーティストからは批判が上がっており、そんなのアートじゃないという論調も出て来ています。
しかし、このAIアートで描かれた作品は方々で評価され、その製作にかかる時間が圧倒的に短いこととその完成度の高さに驚いた方も多いはずです。このAIに指示を出す人間のスキルを上げる必要性がある点では、まだまだこれからだと思いますが、使い様によっては非常に価値のあるツールとなります。
その人のセンスやこれまでの経験が必要となる技術の中でも、このようにデジタル技術に取って代わられてしまうものが次々と出現し、それが今、実用化され始めています。この現象は場合によっては、これまでのアーティストの能力をAIが、軽々と一瞬にして超えてしまうことになります。このような現象が見られるのは、クリエーターの世界だけではなく、飲食業界も同様です。
特に飲食店に食材を卸している食品加工業、製造業の技術は、ものすごいペースでレベルを上げていっています。
フランス料理の『フォンド・ボー』もこれまでは何年も鍛錬を積んで技術を習得した人にしかできないものでしたが、現在は、それと遜色のないものを工場で再現できる様になっています。ラーメンのスープや和食の出汁なども同様です。『炒める」といった高いレベルでの技術が必要な調理方法に関しても、今では自動調理器の設定がかなり細かくでき、高い技術の再現が可能になってきています。また、いつも同じ味をキープするための成分分析やパッキングなどの保存技術の進化もあり、熟練の技をオートメーションで再現することは以前より容易になってしまいました。
ある意味では、一流の技術をもつ料理人の価値を変えてしまうほどのAI、デジタル技術が出てきており、これまで腕を磨いてきた料理人の技術が、元も子もなくなってしまうような感覚にもなります。
この流れはさらに加速し、いつも美味しくて安定したものが工場から運ばれ、ほとんど調理をしなくても、飲食店の料理として提供できるレベルの食材が増えることは間違ありません。
こんな元も子もなくなってしまうような技術によって、工場で作った既製品でも十分美味しいなら、それを利用することを選ぶ飲食店は激増すると考えられます。
それによって飲食店の料理の『仕込み』という仕事を省き、経費の中で多くを占めている人件費を削る方向に転換する飲食店は増えるでしょう。
これまで通り素材を仕入れて1から全て加工するコストを考えると、ある程度出来上がっている食材を仕入れて、最終調理工程だけで勝負することも可能です。
もちろん全ての飲食店が当てはまるわけではなく『ちゃんと高級なお店』は、この流れに真っ向うから逆らって、素材を自ら取り寄せイチから調理した最高の料理を提供することを続けるべきでしょう。しかし、前述した『味も値段も中間のお店』に関しては、この『元も子もなくなってしまう技術』を最大限に活かして、安定した料理を提供することも選択肢の一つとなります。
そして、その分余ったリソースは、接客などの人にしかできないことで他のお店との差別化を狙うか、利益の確保に回すべきです。
祖父 『昔のラーメン屋さんはね、お店で最初からスープ作ってる店がたくさんあったんだよ。』
孫 『えーっ、そんなんじゃ毎回味変わっちゃうじゃん。』
祖父 『今もそういうお店あるんだよ。』
孫 『へぇー、行ってみたい!』
祖父 『結構な高級店だぞ。』
こんな会話がされるのもそう遠くないことかもしれません。
5 キュレーション業態の台頭
食品加工業者の技術レベルが年々上がっていく一方、この3年間のコロナ禍では個人店など中小規模の飲食店は惣菜製造業の営業許可を取得して、加工品の通信販売や卸売をするスキルを身につけて来ました。
これにより、オリジナリティーのある冷凍食品や瓶詰め商品が増え、小ロットでも思い思いの商品を製造しており、他とは違う料理を生産して全国各地の人たちに発送している飲食店がとても増えています。
また、異業種から飲食業界へ参入する会社が多いのも最近の傾向です。
調理技術や飲食店のノウハウは持っていないがマーケティングを得意とする会社や好条件の店舗物件を早い段階で抑えることができる不動産業者が飲食店を開業し、繁盛店となるケースもますます多く見られるようになりました。
そういった会社が目をつけているのが個人店など中小規模の飲食店が作っている『大量生産はしていない美味しい加工食品』です。調理技術があり既に実績のある飲食店が製造した惣菜や冷凍食品を揚げる、焼く、蒸すなどの最終工程だけ店舗内で行い、お客さんに提供する業態が存在感を出し始めています。
全国各地のおいしい加工食品を取り寄せて、それをお店で提供する。
言い換えると『飲食店のセレクトショップ』といったところでしょうか?
そんなんじゃぁ、家で食べるのと変わらないんだから、お客さんが来るわけがないでしょ!
と思うかもしれませんが、これはすでに営業しているお店が実証しています。
株式会社ミナデイン株式会社ミナデインは食を通したまちづくりプロデュースやコンサルティング事業、 カフェ・ファミリーレストラン・居酒屋などの飲minadein.com
もちろん、ただ単に出来合いの料理を提供しているだけではなく、一定の手間はかけています。そして、飲食業は味だけの勝負ではないことはすでに誰もがわかっていることです。接客、内装、食器など総力でこの新しい『飲食業のセレクトショップ』は運営されています。
前述した様に、工場で作ったものとはっきりと差が出るほどの料理を作れる人はごく限られた人なのであれば、その難しい調理工程のうちの『仕込み』を放棄する飲食店があってもいいはずです。このように、いろいろな美味しい料理やお酒を探し出し研究して、キュレーションし一つのお店にする形の飲食店が増えていくでしょう。
超一流の料理人になれないのなら、一流のキュレーターになり満足度の高いお店を作ることも視野に入れていいと思います。
そして、こんな話をしていると「飲食店が料理を他から取り寄せているんじゃぁ、もう飲食店じゃないじゃん!」という声がガンガン上がると思います。僕も以前までは、そう考えていましたが、この2年間、飲食業界を客観的に見続けてきて、その考えはかなり薄れて来ました。
フランスパンを焼いていないフランス料理屋は、フランス料理屋ではなく、飲食店としても失格なのでしょうか?
なぜ、お店の客席に置いてある醤油は、ほとんどが手造りじゃないのに自家製の醤油を作るお店は少ないのでしょうか?
そもそも『飲食店』の定義とはなんなのでしょう?
6 『飲食店』というカタチがなくなる
飲食店をつくる要素は、『人・もの・場所』と言われています。
『人』 = スタッフ、オーナー
『もの』 = 料理、酒
『場所』 = お店の内装、雰囲気
この3つで飲食店は形づくられているという話です。
これまでは『スタッフ』による接客で楽しんだり、思いやりで癒されたり、美味しい『料理』や『お酒』が提供されて、『お店の内装』で非日常感を味わえたりほっとできたりするのが『飲食店』でした。
『人・もの・場所』が3つ全て揃って飲食店が成立していたのです。
しかし、今ではこの3つが解体されつつあり、そのうち2つでも成立する形があったり、1つ1つバラバラに提供される現象が起きています。
そして、飲食業界だけの変化ではなく、コロナ禍でのライフスタイルの変化によって今までの飲食店の輪郭がはっきりとしない時代になっているようです。
その「飲食店」の要素がバラバラになった業態が増えたことから『飲食店』の競争相手は『飲食店以外の業態』にも見られるようになってきました。
例に挙げると
- 料理は提供するが、そこで呑み食いできないゴーストレストラン
- お店を持たずに出張料理をするシェフ(昔からいますが急増中)
- お家を装飾してくれるスタッフ付きの豪華なケータリング
- 買ってその場で食べれるコンビニやスーパーのイートインコーナー
- お店の味を再現できる食材キット
従来の『人・もの・場所』が3つ全て揃った飲食店が完全になくなることは決してありません。しかし、その数は減っていき、コレはやるがコレは捨てるといった今までの『人・もの・場所』の3つを揃えない、いろいろな形に変化しだ飲食店が増えます。
もっとも顕著な例として、大人数の宴会やパーティーができる飲食店がコロナ以降激減していく中、ケータリングや持ち込みな可能なレンタルスペースが増えてきています。
従来の『人・もの・場所』のうち、レンタルスペースが『場所』を提供し、ケータリング業者が『もの』を担当し、予算によっては『人』も提供する形です。
この様な自由自在に形を変える複合体が飲食店の競合になっています。
これからさらにさまざまな業態が出現して、飲食店のシェアに食い込んでくることになります。
新規の開業の際に、近隣の飲食店を食べ歩いたりするのは当たり前ですが、それだけでは事足りません。近くのカラオケボックス、レンタルスペース、スーパーやコンビニ、デリバリーやケータリングサービスの範囲内か、など多角的な調査が必要になってきます。
7 全時間帯・全方位営業
コロナ禍以降、明らかに人々の外食の頻度が減り、飲酒量が減ったことはみなさんもお気付きでしょうし、ご自身も実際に外食が減っていることでしょう。
その流れに押されて、お店に訪れて料理やお酒を楽しんで時間を過ごす『イートイン』はこれまでのように飲食店の収入源のメインではなくなっていくでしょう。
その波は今年以降、さらに大きなうねりになってきます。
これまで飲食店の形を作っていた要素が解体され新しい形を産んでいき、色々なコラボや協業が生まれています。今後もあらゆる方向での顧客の獲得をする努力が必要になってきます。
『それ飲食店の仕事?』っていうところまでやってしまうぐらいの気構えが必要かもしれません。
というか、そこまで行かなければ、そのお店である価値を出すことが難しくなっているのかもしれません。
その一つとしては、営業時間の変化です。
『朝食、ランチ、テータイム、ディナー、深夜帯』
大きく分けてこの5つが飲食業のビジネスタイムと考えるのが一般的なカタチです。その中でも飲食業のメインとなって最大の売上が期待できるボリュームゾーンとなっていたのがディナータイムです。次いで深夜帯、ランチタイムと続くのが一般的でした。
しかし、コロナ禍での習慣の変化でこの順位は変わり、深夜の時間を切り捨てて閉店時間を早める店舗は相当数ありました。その替わりランチタイムの客単価は上昇傾向にあります。これは夜で歩かなくなった分の予算が昼のちょっとした贅沢に置き換わっていることが原因でしょう。
そして、朝ごはんの時間帯に勝負どろこを移す飲食店も増えてきています。昨年の秋以降は以前のようにオフィスに出社することを求める会社も増えてきておりオフィス街にも活気は戻っていますが、やはりコロナ前の水準には届かず、その分は郊外の住宅街にある飲食店の利用機会は以前より増しています。これは大きな変化です。
働き方を含めて、ライフスタイルは多種多様になり、これまでボリュームゾーンとは言えなかった朝食、テータイムの利用客は相対的に緩やかに増えていきます。
それにニーズに合わせた全時間帯でのお客様のアプローチが必要となり、これまで夜しか営業をしていなかったお店や深夜まで営業していたお店が大きく舵を切ることが必要です。朝食なんて考えたこともなかったようなお店がその可能性を探るべき時期に来ているのかもしれません。
また、イートインが飲食店の主戦場と考えるのが当然という思考回路も一度破壊してみるべきです。イートインに限らず売上が発生する可能性のあることは全て検討してみるという気構えも大切になってきます。
『人・もの・場所』という飲食店の要素がバラバラに解体されたことに加え、『店内で料理を食べて過ごす』ということ以外の収入源を積極的に考えてみましょう。
テイクアウト・デリバリー・通販、ここまでは既にみんな考えたり実行に移していることと思います。その一歩二歩先を考えてみましょう。
こんな飲食店も台頭してきています。
フードツアーで起業して2年 → 今度は飲食店をオープンした人に話を聞いてきた | シゴタノ!フードツアーで起業して2年 → 今度は飲食店をオープンした人に話を聞いてきた2019年1月に西荻窪駅前にオープンしたばかりの「日本酒バル どろん」さんに行ってきました。 実はこのお店のオーナーは、以cyblog.jp
8 海外の顧客をつくる
そして、ここで取り上げておきたいのは、いかにして日本の飲食業において海外の顧客をつくるかです。海外に出店して外貨を得ることもそうですが、今回は外国人観光客に日本の飲食店を利用してもらうことを考えてみます。コロナ禍の収束によってこれから本格的に回復してくる外国人観光客の取り込みはとても重要な課題になります。日本よりも景気のいい海外の利用客に売上の下支えをしてもらってもいいはずです。
実際、日本のホテルや旅館はすでにその恩恵を受けており、海外からの観光客が円安の影響で増加していることから、宿泊料金を急激に上げてきています。外国人旅行客が多少高い価格設定でも宿泊してくれるから、国内のお客さんは別にいいやと言っているかのようなレベルの値上げを実施しています。
実際この年末年始や1/10からの全国旅行支援でも旅館やホテルの料金を調べて驚愕した人は少なくないはずです。
その施策と同じように飲食店でも、外国人観光客が利用してくれることを念頭においた価格設定をするべきお店もあるでしょう。浅草、京都といったはっきりとした観光地は、とっくにその方向で手を打っていると思いますが、観光客相手と明確になっていない飲食店もこの時流を把握して手を打つ時期に入ってきています。
コロナ前の時点で訪日外国人の数は3000万人を突破していました。
今年からは本格的に回復し、政府の政策も追い風となり今後数年は9000万人程度に達するのではないかという予測も出ています。
そしてこの9000万人の外国人観光客は、円安という背景から日本全体がものすごい割安であると考え、消費意欲がものすごくあるのを忘れないでください。
この事実を無視して、日本人だけをターゲットとした飲食店として営業をし続けられるほど余裕のあるお店はあまりないでしょう。特に日本ならではの料理を提供しているお店は、外国人を受け入れ消費意欲に応えて売上を立てていくことが普通になります。
うちは外国人とか観光客はいいや。
そう言い切れるお店のポリシーも大切にしたい気持ちもありますが、今、イン書k店を取り巻く環境はどんどん変わってきています。
ホームページの英語表記やSNSの英語での発信などはもっと常識になっていくと思いますが、その対応に乗り遅れるお店はとても多いと予想しています。ただ単に英語対応するだけで売上が3割上がったというようなことは、これからしょっちゅう起こると思われます。
9 脱・満席回転主義のススメ
前述していますが、人件費や材料費、光熱費の高騰で飲食店を経営するための経費はどんどん上がってきています。そんな中でも値上げをするとお客さんが離れてしまうのが怖く値上げに踏み切れないという状況で困惑しているお店はとても多いはずです。
当たり前のことですが、お店の売上を増やしていくには以下の3つを最大限にすることが必要です。
①客数 新規のお客様を増やす
②客単価 お客様が使うお金を増やす
③来店頻度 何度も足を運んでもらう
お店の売上高=①客数×②客単価×③来店頻度
これが基本的な法則です。
このことから以下のことを徹底するお店が多くあります。
◎ できるだけ多くのお客さんに来てもらうように広告宣伝する
◎ できるだけお金を使ってもらうためにおかわりを聞いて回る
◎ また利用してもらうためにクーポンを配る
しかし、この売上が伸びるように、客数が増えるようにといった拡大、膨張を常にし続けなきゃいけない経営は必ず歪みがどこかに出てしまいます。
『できるだけ満席にしてどんどん注文してもらって、何回転もさせる』
この考え方を脱する努力をするべきです。
つまり、満席じゃなくても経営できる飲食店を作ってみることを考えて欲しいのです。
参考になるお店として以下の2店舗をあげておきます
福岡にある『立呑 メグスナ』は店舗の奥にカラオケを併設した少人数の立ち飲みスペースを用意しています。この奥の立ち飲みスペースは、3回以上の来店以降にしか利用できないようになっています。いわばVIP戦略ともいえるこの手法は、初回から3回目までの来店の際には目一杯そのお店の全てを楽しめず余白を残しているのが特徴です。初回の来店からたっぷり楽しんでもらうことで客単価を上げるということを捨てていますが、将来の再来店の時に付加価値をしっかり持たせる構図が出来上がっています。
福岡・薬院に立ち飲み居酒屋「立呑 メグスナ」 会員制スナック風スペース併設立ち飲み居酒屋「立呑(たちのみ) メグスナ」(福岡市中央区薬院3、TEL 092-791-3337)が6月22日、オープンtenjin.keizai.biz
ラーメン屋といえば、まさに回転率が命の業態とされてきましたが、それに逆らって中野にあるこの『ラーメン箕輪家』では客席の一部がVIP席になっており、一部のヘビーユーザーしか利用できないようになっています。
箕輪家家系ラーメン箕輪家オフィシャルサイト。東京中野・ドバイから世界へ!わかっちゃいるけどやめられない。後悔するために生きているramen-minowaya.jp
もちろんVIP席の利用には追加の料金がかかりますが、常に満席にならなくても、たまに使ってもらえるだけで収益につながる形に作られているところがポイントです。
満席を狙わず半分も席が埋まれば経営が成り立つ飲食店だったり、月に3組の利用があれば収支がプラスになるレンタルスペースといったビジネスが存在します。
これを成立させるためには、一度の利用料金がかなり高額でなければなりません。
つまり、その高額の料金でも納得してもらえる、満足度の高いサービスでなければならないのです。
これを実行に移せる経営者は、満席にしなきゃ、回転させなきゃと考える人と思考回路が全く違います。このお店の固定費はいくらなのか?最低いくらの売上を立てないとならないのか?
ここまではどちらも同じように計算します。
しかし、ここからは違います。
一般的には、
その売上を達成するためには一杯の700円のラーメンをいくつ売らないといけないのか、それなら毎日何人に来てもらわないといけないのか?
こう考えます。
しかし、満席回転主義を脱した経営者は、以下のように考え進めて行きます。
その売上を達成するためには月に300万円必要なんだな。
⇩⇩⇩
ならば1万円のラーメンを300杯売ればいいんだな。
⇩⇩⇩
1万円でも満足するラーメンを作ってみよう。
少し極端な例えですが、このようになります。
一泊一人5000円の宿で1000人の来客があれば500万円の売上だ。
⇩⇩⇩
でも一泊貸切で100万円の宿泊料ならば、5日間の利用があれば同じ500万円の売上だ。
⇩⇩⇩
一泊100万円でも満足のいく宿泊プランを考えてみよう。
これと同じ思考回路です。
ここに現れているのは、その経営者の努力の最大ポイントが満席大回転なのか、サービスのクオリティーを上げるのか、の違いになっている点です。
満席大回転を目標に掲げることで、常に集客活動をして、また来店してくれるようにコミュニケーションをとり、できるだけ早くお酒のおかわりを持って行き、また来てもらえるように土産やクーポンを持たす。これをやり続けることで肉体的にも精神的にも疲弊していきます。
薄利多売の形でもあるこの満席回転主義を頭から消し去って、一度まっさらの状態から経営方針を見直すべきでしょう。
VIP戦略ともいえるこの脱・満席回転主義は、さまざまな業態に広がって行き、貧富の格差が進む社会の中でも目立つ現象になると思います。
安くてうまいものを提供し続ける庶民のヒーローは本当に素晴らしいと思います。
しかし、VIPを顧客にするという選択肢を持てるようにVIPの心理が理解できるように努力したり、VIP体験を自らしてみることも必要です。VIPという顧客を鼻から毛嫌いすることはあまりにももったいないと考えます。
10 最後に
冒頭にも書きましたが、昨年からの変化の波は大きいうねりとなって飲食業界に向かってきます。 これまではあやふやにしてきたり、どうにか凌いできたことが、もうどうにもならなくなる時期になっていきます。
そして、それらの決断に時間をかけていては死活問題になるでしょう。
これまでの話だと、人の温かみとか手造りの良さはだめだと言っているように感じるかもしれませんが、全くそうではありません。
人でしかできない愛のある作業、行動はこれからも喜ばれるし、なくなることはありません。しかし、その『人の手で作ったものに限る!』と言ってられるのはごく一部のお店や経営者であって、その価値はものすごく高くなるということです。
経営者やこれから開業しようとする人は、自分のお店がそんな環境の中で何を大切にしどんなお店にするのかをしっかりと決め直して営業していくことが大事です。
そして飲食業界以外からの参入がさらに増えて、新しい固定概念にとらわれない飲食店が増えて行き、これまで飲食業界一筋で来た経験者が考え方を変えて、常識を疑い行動し続けていれば、とても楽しみな未来になると思います。